夏の朝の窓辺で、子どもが観察ノートを手に、手作りおもちゃの匂いを嗅ぐ茶トラの猫を見守っている様子。

今年の夏、猫と一緒に「小さな研究者」になる|うちの猫はまたたび派?キャットニップ派?

夏休みのある朝、子どもが猫の前に、そっとおもちゃを置きます。

猫は近づくでしょうか。匂いを嗅ぐでしょうか。顔をこすりつけて、ごろりと転がるでしょうか。それとも、ちらりと見て立ち去るでしょうか。

一見すると、ただの遊びに見えるかもしれません。

けれど、これは世界の研究者が本気で調べている、れっきとした研究テーマです。そして、あなたの家の猫がどのような反応を見せるかは、どんな論文を読んでも書いてありません。

観察してみなければ、誰にも分からないのです。

この記事は、その「観察」を一夏の宿題だけで終わらせず、何年も続く小さな研究へ育てるための案内です。

読み終えるころには、親であるあなたの頭の中にも、いくつかの問いが浮かんでいるかもしれません。

キャットニップとまたたび


キャットニップは、和名をイヌハッカというシソ科のハーブです。

葉や茎には「ネペタラクトン」という揮発性の香り成分が含まれています。これを感じ取った猫は、顔や頬をこすりつける、転がる、舐める、噛む、前足で触るといった行動を見せることがあります。

一方、日本で古くから親しまれてきたのが、またたびです。

欧米ではキャットニップ、東アジアではまたたびがよく知られていますが、猫によって、反応する植物も反応の仕方も異なります。

派手に転がる猫もいれば、静かに伏せる猫、匂いだけ確かめて立ち去る猫、ほとんど興味を示さない猫もいます。

その違いこそ、観察してみたいところです。

ここからは、この記事の中心となる「研究データ」を見ていきましょう。

プロの研究者が積み重ねてきた事実を、少していねいにたどります。子どもと一緒に読んでも、大人が一人で読んでも、新しい発見があるはずです。

【研究データ1】なぜ猫は、この香りに反応するのか

2021年、岩手大学などの研究チームが、猫の特徴的な反応に関係する仕組みを調べました。

またたびの主要成分の一つである「ネペタラクトール」を猫に提示すると、血液中のβエンドルフィンが増加しました。

さらに、μオピオイド受容体の働きを阻害すると、猫が顔や頭をこすりつける反応が弱くなりました。

このことから、猫の特徴的な反応には、体内の「μオピオイド系」と呼ばれる仕組みが関係すると考えられています。

もう一つ、興味深いことも分かりました。

猫が植物へ顔や体をこすりつけると、植物の香り成分が被毛へ移ります。その成分には蚊を遠ざける働きがあり、実際に蚊が猫へ近づきにくくなることも確認されました。

猫が植物に体をこすりつける行動には、単なる遊びを超えた、生物としての意味があるのかもしれません。

Science Advances掲載研究

【研究データ2】100匹の猫に、4種類の植物を見せた

2017年、100匹の家庭猫を対象に、4種類の植物を提示する研究が行われました。

  • またたび
  • キャットニップ
  • タタリアン・ハニーサックル
  • バレリアン

それぞれを複数回提示し、反応を観察した結果は次のとおりでした。

  • またたびに反応:79%
  • キャットニップに反応:68%
  • タタリアン・ハニーサックルに反応:53%
  • バレリアンに反応:47%
  • いずれか一つ以上に反応:94%
  • どれにも反応しなかった猫:6%



注目したいのは、キャットニップに反応しなかった31匹のうち、22匹はまたたびには反応したことです。

またたびに反応した猫の割合は79%、キャットニップは68%でした。ただし、この二つの反応率の差は、この研究では統計的に明確な差とは判定されませんでした。

一方、反応の強さについては、またたびの方が強いという結果でした。

また、性別による明確な違いは確認されず、怖がりな猫と人懐こい猫の間にも、反応率の差は確認されませんでした。

猫の普段の性格を見ただけでは、どの植物に反応するかは分からないのです。

BMC Veterinary Research掲載研究

【研究データ3】22匹に、またたびとキャットニップを同時に見せたら

さらに新しい研究が、2026年に発表されました。

研究者は、2つの施設で普段どおり集団生活をしている、9品種22匹の猫に、またたびとキャットニップの抽出物を同時に提示しました。

猫は自由に近づくことも、無視することもできます。

飼育記録と担当者からの報告の範囲では、この猫たちに、またたびやキャットニップを与えた記録はありませんでした。つまり、初めて出会う香りでした。

結果は、次のようになりました。

  • またたびだけに反応:15匹
  • キャットニップだけに反応:3匹
  • 両方に反応:1匹
  • どちらにも明確な反応なし:3匹



多数派は、またたびでした。慣れや学習ではなく、初めての出会いでも、多くの猫がまたたびを選んだのです。

しかし興味深いのは、またたびには反応せず、キャットニップだけに反応した猫が3匹いたことです。

もちろん、この22匹の結果だけで、すべての猫の反応率を決めることはできません。

二つの抽出物を同時に提示した特定条件での、一つの研究だからです。キャットニップだけを提示した研究の反応率と、直接比較することもできません。

それでも、この研究から新しい問いが生まれます。

あなたの猫は、この四つのどこに入るのでしょう。

多数派のまたたびに反応するのでしょうか。

少数派のキャットニップだけに反応するのでしょうか。

両方か。それとも、どちらにも動じないのでしょうか。

Journal of Chemical Ecology掲載研究

【研究データ4】香り成分が多ければ選ばれる、とは限らない

この2026年の研究には、さらに不思議な結果があります。

研究に使われたキャットニップには、主要な香り成分であるネペタラクトンが、生葉1g当たり9.1mg含まれていました。

一方、またたび葉の抽出物に含まれていた活性イリドイドの総量は、生葉1g当たり53.4μgでした。

単純に量を比較すると、キャットニップには、またたびの約170倍の活性イリドイドが含まれていたことになります。

それにもかかわらず、自由に選べる状況では、またたびに反応する猫の方が多かったのです。

研究者が注目したのは、成分の「量」と、猫が自分から近づいて行動する「確実さ」が、必ずしも一致しないことです。

またたびには、主成分のほかにも複数のイリドイドが含まれています。その組み合わせなどが、猫の反応に関係する可能性も考えられています。

香り成分が多ければ、必ず猫に選ばれるわけではない。

猫の嗅覚と行動は、私たちが考えるほど単純ではないようです。

【研究データ5】葉が傷つくと、香り成分の放出量が変わる

2022年には、猫がキャットニップやまたたびの葉を舐めたり、噛んだりする理由を調べた研究も発表されました。

生のキャットニップ葉が傷つけられると、無傷の葉と比べて、放出されるイリドイドの量が約20倍になりました。

猫が葉を舐めたり噛んだりすることによって、植物の香り成分が、より多く空気中へ放出されるのです。

ただし、これは生の葉を使った実験です。乾燥したキャットニップでも同じように20倍になる、という意味ではありません。

それでも、猫が植物を嗅ぐだけでなく、舐める、噛む、前足で触るといった行動にも、観察する意味があることが分かります。

iScience掲載研究

【研究データ6】反応の仕方にも、猫ごとの個性がある

2022年には、6匹の猫を72日間にわたって観察し、5種類の植物と13種類の香り成分に対する行動を調べた研究も発表されています。

植物に対する反応は、計470回記録されました。

観察されたのは、次のような行動です。

  • 顔や頬をこすりつける
  • おもちゃを抱える
  • 舐める、噛む
  • 後ろ足で蹴る
  • 横になる
  • 転がる
  • 頭を振る
  • 背中を細かく動かす

反応の長さや頻度、最初に反応するまでの時間には、猫ごとに大きな違いがありました。

さらに面白いことに、一匹の猫が見せる行動には、その猫らしい一定の傾向がありました。

顔をこすることが多い猫。抱えて噛むことが多い猫。横になって反応する猫。植物が変わっても、それぞれに特徴があったのです。

この研究では、猫の嗅覚受容体に関係する遺伝的な違いだけでなく、猫ごとの個体差や性格も、反応に関係する可能性が指摘されています。

調べるのは「反応した・しなかった」だけではありません。

どのように反応したかも、その猫の個性なのです。

BMC Biology掲載研究

【研究データ7】転がらなくても、無反応とは限らない

60匹の猫に乾燥キャットニップ500mgを提示した別の研究では、その研究独自の分類で、約20%が転がるなどの活発な行動を見せ、約80%が動きや鳴き声が減るといった受動的な反応を示しました。

ほかの研究とは反応の判定方法が異なるため、先ほどの68%という数字と直接比較することはできません。

それでも、家庭で観察するときの大切なヒントになります。

猫が転がらなかったからといって、すぐに「反応しなかった」と決めてはいけません。

じっと伏せている。動きがゆっくりになる。鳴き声が減る。

そんな静かな変化にも、記録する価値があります。

Behavioural Processes掲載研究

【研究データ8】反応しない猫は「失敗」ではない

観察を始める前に、ぜひ知っておいてほしいことがあります。

キャットニップに反応するかどうかは、その猫が生まれつき持っている遺伝的な体質で決まると考えられています。古い研究では、およそ3匹に1匹はキャットニップに反応しませんでした。性別や毛色、性格とは関係がないこともわかっています。

つまり、反応しなかったからといって、観察が失敗したわけではありません。「反応しなかった」という結果も、立派な発見です。そういう猫は、またたびには反応するかもしれません。

そしてもう一つ、年齢も関係します。生まれてすぐの子猫は、多くの場合キャットニップに反応しません。反応が出はじめるのは、だいたい生後3〜6か月ごろから。1歳近くかかる猫もいます。反対に、年をとった猫では反応が静かになることもあります。

同じ猫でも、年齢によって反応は変わっていく。これは、あとで大切な意味を持ってきます。

Journal of Heredity掲載研究(Todd 1962)

ここまでが、研究者たちが積み重ねてきたデータです。

では、これを土台にして、いよいよ「あなたの猫」を観察してみましょう。

ここからが、家庭で始める研究です。

最初に予想を書いてみましょう

自由研究で大切なのは、最初から「猫が喜ぶはず」と決めないことです。

まず、観察する前に予想を書きます。

うちの猫は、キャットニップに反応すると思う。 最初に匂いを嗅ぎ、そのあと顔をこすりつけると予想する。

実際の結果が予想と違っても、失敗ではありません。

なぜ予想と違ったのかを考えるところから、次の研究が始まります。

猫自身が選べるようにする



キャットニップの香りを付けたおもちゃを、猫が自由に近づける場所へ置きます。

無理に鼻へ近づけたり、体へこすりつけたりしてはいけません。

猫自身が近づくのか、離れるのかを観察します。

記録する項目は、例えば次のようなものです。

  • 日付と時刻
  • 観察した場所
  • 猫の年齢
  • 使用したおもちゃ
  • 使用したキャットニップの状態
  • おもちゃへ近づくまでの時間
  • 匂いを嗅いだ時間
  • 顔や体をこすりつけた回数
  • 前足で触った回数
  • 転がった回数
  • おもちゃの近くにいた時間
  • 離れたあと、もう一度戻ったか
  • 活発になったか、静かになったか

スマートフォンで動画を撮影し、あとで一緒に見直すと、その場では気づかなかった行動を発見できます。

「見たこと」と「考えたこと」を分ける



観察ノートでは、事実と考察を分けて書きます。

観察した事実 そこから考えたこと
おもちゃを12秒間嗅いだ 香りを詳しく確かめていたように見えた
右の頬を3回こすりつけた キャットニップに興味を持った可能性がある
一度離れ、5分後に戻った 最初は少し警戒していたのかもしれない
転がらず、近くで伏せた 活発ではなく、静かな反応だった可能性がある
おもちゃへ近づかなかった キャットニップに明確な反応を示さなかった

「喜んだ」「嫌いだった」と最初から決めるのではなく、まず見えた行動を具体的に書きます。

よく見る。

数える。

時間を測る。

言葉にする。

前回と比べる。

この繰り返しによって、子どもの「観察する目」が養われます。これは、教科書を読むだけでは身につけにくい力です。

もう一歩進んで、二つのおもちゃを比べる



より研究らしくするなら、同じ形のおもちゃを二つ用意します。

一つにはキャットニップの香りを付け、もう一つには付けません。

二つを同じ場所へ置き、猫がどちらへ先に近づくか、どちらに長く触れるかを観察します。

別の日には、左右の位置を入れ替えます。

これによって、

おもちゃそのものに興味を持ったのか それとも、キャットニップの香りに反応したのか

を考えられます。

条件を一つだけ変えて比較する。これが実験の基本です。

またたびと比較する場合

またたびが手元にある場合は、別の日に、同じ場所、同じ時刻、同じ形のおもちゃを使って観察してみましょう。

キャットニップとまたたびは、別々の密閉袋で保管し、香りが混ざらないようにします。

提示する順番、その日の気分、部屋の状態なども結果へ影響する可能性があります。一度の結果だけで結論を出さず、日をあけて何度か観察します。

そうすれば、

うちの猫は、またたび派か。キャットニップ派か。

という最初の問いへ、少しずつ近づいていけます。

一年で終わらせない——今年の夏に、来年の研究を始める



この研究は、夏休みが始まってから慌てて取り組む必要はありません。

今年の夏に始めた観察を、一年を通して少しずつ続け、来年の夏休みに結果を整理して発表することもできます。

そして毎年、テーマを一段ずつ深められます。

  • 1年目:うちの猫はキャットニップに反応するか
  • 2年目:新しい香りと、時間がたった香りで反応は違うか
  • 3年目:おもちゃの形によって反応は変わるか
  • 4年目:朝と夜で反応に違いはあるか
  • 5年目:年齢とともに反応は変化するか

前年の結果から、新しい問いを作る。

条件を少し変えて、もう一度観察する。

結果を比較し、次の仮説を立てる。

これは、プロの研究者が行っている研究と、基本となる考え方は同じです。

研究者は、多くの猫を一定期間調べられます。しかし、同じ一匹の猫を何年にもわたって見守れるのは、一緒に暮らしている家族です。

その子にしかできない研究が、ここにあります。

今年の答えが、来年の問いになる。

本当に手に入るのは、宿題の完成だけではありません

記録を続けると、子どもは自然に三つの力を身につけます。

一つ目は、観察する目。

ぼんやり眺めるのではなく、「どこを、どのくらい、どのように」と細かく見る習慣です。

二つ目は、事実と意見を分けて考える力。

見たことと、そこから考えたことを区別する。これは、大人になってからも役に立つ、知性の土台です。

三つ目は、記録を書く習慣。

気づいたことを言葉にし、書き残す。記録があるから、昨日と今日、去年と今年を比べられます。

宿題は提出すれば終わります。

けれど、この三つの力は、終わりません。

夏休みの宿題を片づけるためだけではなく、自分の研究を持つために。

その最初の一日を、愛猫と一緒に始めてみませんか。

遊ばなくなったおもちゃでも観察できます

キャットニップ入りのおもちゃは、時間がたつと揮発性の香り成分が少なくなります。

遊ばなくなったおもちゃと新しいキャットニップを密閉袋へ一緒に入れ、数時間から一晩置いてみてください。

袋の中に広がった香りが、おもちゃの布地へ移ります。

そして翌日、同じおもちゃへの反応を観察します。

香りを移す前と後で、

  • 近づくまでの時間
  • 匂いを嗅いだ時間
  • 触れた回数
  • 遊んだ時間

を比べれば、これも一つの研究になります。

遊ばなくなったおもちゃに、もう一度ワクワクを。 袋の中で、キャットニップの香りを再充電。

観察に使えるカナダ産キャットニップ50gと、手作りおもちゃ用の材料をセットにしました。

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※猫によって反応には個体差があります。最初は少量から試し、必ず大人が見守ってください。猫が嫌がる、強く興奮する、攻撃的になるなどの変化が見られた場合は使用を中止してください。無理に反応させようとせず、猫が自由に離れられる環境で観察してください。おもちゃの破れや、ほどけたひもにも十分注意してください。