『赤毛のアン』の海辺に香る草 ― スイートグラスの物語
歩いていると、足もとから、ふと甘い香りが立ちのぼる。名前も知らないその草の香りに、なぜか心がほどけていく――。
そんな出会い方をする香りが、世界にはあります。スイートグラス。日本ではめったに出会えない、甘くやさしい香りの草です。今日は、この草にまつわる物語をご紹介します。
ジム船長が砂丘で見つけた花束
スイートグラスの香りは、実は『赤毛のアン』の物語にも登場します。シリーズ第5巻『アンの夢の家』第18章「春の日」――ある春の午後、ジム船長は砂丘を歩いて見つけたスイートグラスの小さな花束を、アンに届けます。
あてもなく砂丘を歩いていると、ふいに甘い香りが空気に満ちて、足もとを見ればスイートグラスを踏んでいた。船長は、そんなふうに偶然この草に出会うのが好きだと語ります。探しているときには見つからない。ただ歩いているときに、香りのほうから訪れてくる――そんな草なのだと。
香水は好まないという船長が、この草の香りだけは気に入っている。円熟して、頼もしく、健やかな、ちょうど母親のような香り。淑女が身につけるにふさわしい香りだ、と語る場面は、読んでいてふっと心が温まります。
"…all at once the air is full of sweetness—and there's the grass under your feet. I favor the smell of sweet-grass. It always makes me think of my mother." — L. M. Montgomery, Anne's House of Dreams, Chapter 18
『赤毛のアン』シリーズは著作権が切れていて、原文を無料で読むことができます。英語の原文で、この場面を味わってみるのも素敵です。やわらかな海辺の空気と、甘い草の香りが、行間から立ちのぼってくるようです。
スイートグラスとは
スイートグラス(学名 Hierochloe odorata)は、その甘く上品な香りから、古くから神聖な草として大切にされてきました。アメリカ・モンタナ東部からアルバータ、カナダにかけて分布し、地面に近い茎は赤みを帯びて、香水のような芳香を放ちます。
長い茎を三つ編みにして、お守りや香りの籠に。バニラを思わせる甘い香りは、「良い気を宿す、幸せを呼ぶ香り」として、多くの人々に愛されてきました。英語では Seneca grass(セネカグラス)、Holy grass(聖なる草)、Vanilla grass(バニラグラス)とも呼ばれています。
興味深いのは、ジム船長が「最近この海辺では珍しくなった」と語っていること。『赤毛のアン』が書かれた当時から、すでに見つけるのが難しい草だったのです。野生のスイートグラスは今も大変貴重で、日本ではほとんど流通していません。
ホワイトセージと、対の香り
ネイティブアメリカンの人々のあいだで、スイートグラスはホワイトセージと対をなす草とされてきました。煙で空間を清めるホワイトセージのあとに、スイートグラスで良い気を運び、宿す。浄化と祝福、二つで一組の草として、暮らしの節目に用いられてきたと伝えられています。
ホワイトセージの凛とした香りが「払う」香りだとすれば、スイートグラスの甘い香りは「招く」香り。この二つが対になっているという発想は、香りというものの奥深さを感じさせてくれます。
暮らしの中で、香りを楽しむ
スイートグラスの香りは、暮らしのいろいろな場面に寄り添います。
お部屋では、足もとや床に向けてひと吹き。香りがゆっくりと立ちのぼり、空間にやわらかく広がっていきます。ジム船長が砂丘で出会ったように、下から香りが満ちてくる感覚です。
香り用のハンカチにひと吹きして、バッグに忍ばせておくのもおすすめです(普段使いとは別に、香り用のハンカチをご用意くださいね)。物語の中で、ハンカチのあいだにスイートグラスをしのばせる場面があるのも、なんだか素敵です。
出かける前や、帰宅したとき。旅先の見慣れないお部屋で。甘い香りがひとつあるだけで、その場所がふっと心地よく、自分の場所のように感じられます。
クリスタルやパワーストーン、お気に入りのアクセサリーのそばに置く香りとしても。
おわりに
探しているときには見つからず、ただ歩いているときに香りのほうから訪れてくる――ジム船長の語るスイートグラスとの出会い方は、どこか、人生の良いものとの出会い方に似ている気がします。
ハーブ工房HCCでは、この貴重なスイートグラスから、オリジナルのミストスプレーをご用意しました。火を使わずに、ひと吹きで楽しめる甘い香りです。『赤毛のアン』の海辺に流れていた、あの香りを、暮らしの中で。
商品ページはこちら:
スイートグラス ミストスプレー 50ml


